オリエントと地中海世界 第一章

9.古代オリエントの統一(アッシリアの興亡)

アッシリア王国による統一

オリエント世界は様々な国や民族が入り乱れ、古代から争いが絶えませんでしたが、この世界を最初に統一したのがアッシリア王国です。

首都はニネヴェ。これは良く試験に出ますね。
アッシュールバニパル王の図書館が建設された地です。

アッシリアは前2千年紀に来たメソポタミアに起こったとされるセム語系民族の国です。
千年紀というのは年代がはっきりしない時に使い、前2千年紀とはBC2000~BC1000頃です。

アッシリア王国は小アジア方面との中継貿易によって栄えるのですが、BC15世紀には一時ミタンニ王国に服属することになりました。
ミタンニ王国は覚えていますか? 確認します。

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馬術に優れた国でしたね。鉄器のヒッタイト、馬術のミタンニ、バビロンの支配者カッシート、しっかり覚えておきましょう。
ついでに言うと、小アジアはアナトリア半島のことで、現在のトルコあたりです。

ミタンニ王国に一時は服属しましたが、その後、独立を回復して鉄製の武器、戦車、騎兵隊などを用いて、BC7世紀前半には、エジプトを含む全オリエントの主要部分を初めて統一することになります。

アッシュールバニパル王

アッシリアと言えばアッシュールバニパル王です。
そして、バニパル王といえばニネヴェの大図書館。
アッシリア=アッシュールバニパル=ニネヴェの大図書館

というくらいの図式で覚えてしまってもいいのでは無いかと。
正直なところ、アッシリアの王って100人以上いるのです。

初期のアッシリアから数えて、何代も続いているので、他にも王のエピソードはいっぱいありますが、通常習う世界史の範囲内では、アッシュールバニパル王を覚えればいいでしょう。

さて、このアッシュールバニパル王ですが、他の王に比べてあまり遠征などはしません。
対外戦争も少なめです。

それではなぜ有名なのか?

ひとつは、アッシリアの絶頂期の王だから。
そしてもうひとつは、大図書館を作ったから。

対外戦争はあまりしない王様でしたが、文書収集には力を入れました。
歴代アッシリア王の中で最も教養豊かな王と言われ、シュメール語、アッカド語の読み書きが出来、それを誇りとしていた王でもありました。

だからこそ文書の収集にも力を入れていたのでしょう。
どんな文書を収集したかというと、一般的な文書はもちろんのこと、商業記録、果ては人の手紙まで収集したとか。

この時代にラブレターを書いたら、王に読まれて複製まで作られてご丁寧に保存されてしまうのです。
ラブレターならまだいいのかも知れませんが、王の悪口でも書いた手紙だったら大変なことになるでしょうね。

さて、この大図書館はギルガメシュ叙事詩が残されていることでも有名です。
ギルガメシュ叙事詩はご存知でしょうか?内容をざっくり話しておきます。

ギルガメシュ叙事詩とノアの方舟

ギルガメシュと友人のエンキドは様々な冒険の旅に出ます。
怪物との対決や神の作った牛との対決など、様々な困難を通して、二人の友情は固く結ばれます。

ギルガメシュとエンキドは同等の能力を持ち、共に助け合い競い合う、まさに親友だったのです。
しかしある時、神の怒りを買ったエンキドが殺されてしまうのです。

自分と同等の能力を持った親友が死んでしまったことにギルガメシュは悲しみ、やがて自分も死を免れない存在だと悟ります。
そして、永遠の命を求める旅に出るのです。

この冒険に、大洪水と箱舟の話が出てきます。
これがノアの方舟の話の原型であるとされています。

いやいや、ノアの方舟の話に原型があったらおかしいでしょ?
と思うかも知れませんが、その辺りは棚上げになってます。
神話の類は色々もやっとしたところが多いので、研究すると面白いですよ。

さて、大図書館のあったニネヴェの場所もちゃんと確認しておきましょう。
ティグリス川中流、左岸の都市です。
もし、いま地図が思い浮かんでいたら素晴らしい。
かなり世界史が好きになってきているはずです。

もちろん思い浮かばなくても大丈夫。
地図を多用していきますから、自然に覚えられます。
広域地図から下に行くにつれてズームです。

いまは、ニネヴェという都市はありません。
モースルという都市が見えると思いますが、そこに流れている川がティグリス川で、その東岸にあるのがニネヴェです。
何度も言いますが、大体で大丈夫です。

いきなり正確に記憶しようとすると大変ですから、大体この辺りということがわかればまずはOK。
ティグリス川はイラクのあたりだと覚えておけば大丈夫。

ニネヴェ - Google マップ

ニネヴェ 2

ニネヴェ3

強大な専制君主の国アッシリア

アッシリアという国は王による強大な専制君主の国でした。
全国を州に分け、総督(市長みたいなもの)を派遣して支配させ、王は政治、軍事、宗教を自ら管理。
歴史上初の世界帝国とされています。

しかし、強制移住や重税などの圧政によって服属民の反抗を招き、BC612年、新バビロニアとメディアの攻撃により滅びてしまいます。

アッシリア崩壊後のオリエントには以下の四大勢力が成立します。

■エジプト
■リディア
■メディア
■新バビロニア

ではここから、これらの四大勢力を詳しく見てみましょう。

4王国の特徴-エジプト

エジプトに関しては国名を知らない人はいないだろうというところですが、この時代のエジプトがどういう状況だったかというのをおさえておきます。

エジプト自体は王国として成立していましたが、アッシリアに征服されてしまいました。
第25王朝のタハルカ王、新王国時代の話です。

アッシリアによる征服後、第26王朝が成立します。
しかしこれは純粋なエジプト王国ではなく、エジプトの管理を任されたサイス家によるものです。
この第26王朝が古代エジプト王国の最後の王朝です。

このあと、エジプトを支配するのは有名なアケメネス朝です。

4王国の特徴-リディア

続いてはリディアです。
インド=ヨーロッパ語族で、BC7世紀頃から小アジア南西部に栄え、BC7世紀後半には世界最古の鋳造貨幣を使用します。

これがリディア貨幣。
【エレクトロン貨】と呼ばれています。
エレクトロンは琥珀という意味。

リディア貨幣

リディアの場所を確認しましょう。
ざっくり言えばトルコの西部地域です。
ですので、トルコがどこにあるかわかればOK
リディア

リディア2

北が黒海、南西が地中海です。
BC546年にアケメネス朝のキュロス2世に滅ぼされるまで存続しました。

リディアはヘラクレス神を祖先とする一族、ヘラクレス朝により代々統治され、約500年間続きました。
ヘラクレス朝以降は、メルムナス朝に続くのですが、この交替劇が実に面白い。
有名な話なので知ってる人もいるかもしれません。

カンダウレスとギュゲス

ヘラクス朝最後の王の名前はカンダウレスです。
このカンダウレス王の妻の名前はニュッシアといいます。

カンダウレスは自分の妻、ニュッシアが世界一だ!と信じており、周りに自慢していました。

自慢していメンバーの中に、年下の友人であるギュゲスがいました。
しかしこのギュゲスが、カンダウレスの話を信用しないのです。
そこで、カンダウレスは提案します。

「ならば、妻の寝所に忍び込んで妻の裸体をみてみるがいい」

いやいやそんなこと出来ない、とギュゲスは断るのですが、しつこいカンダウレスに断りきれなくなったギュゲス、仕方なくカンダウレスの妻ニュッシアの寝所に忍び込みます。

その感想がどうだったのかというのは記録に残っていないのですが、忍び込んだ寝所から逃げようとする際、ギュゲスはニュッシアに見つかってしまうのです。

自分の夫が、妻の裸体を他人に無理やり見せたわけですから、ニュッシアは激怒します。
しかし王の妻ですから、ギュゲスもどうにも出来ない。
そして、妻ニュッシアは夫への復讐を計画します。

これがまた凄い。ギュゲスに提案します。

「夫を殺して、私ととともにリディアを支配するか、覗きの罪で死刑になるか、どちらか選びなさい」

王の妻を覗いたとなれば死刑にもなるでしょう。
しかしとんでもない夫婦です。
ギュゲスも死にたくはありませんのでカンダウレスを暗殺します。

そして、ニュッシアを妻にするのです。
ギュゲスが最初からカンダウレスの言うことを信じていればこの事件は無いのですが、ニュッシアも夫のこと愛してなかったのでしょうかね。

この後民衆の蜂起やら色々ありますが、こうして王朝交替となり、
メルムナス朝が成立するのです。

この話はヘロドトスの「歴史」に記述されている話しです。
脚色はされているかも知れませんがこれしか記録としては残っていません。
後世に絵画としてもこの場面は描かれています。

ギュゲスとニュッシア
(カンダウレス/ジャン=レオン・ジェローム作)

この絵の右奥にいるのがギュゲス。

4王国の特徴-メディア

さて、次はリディアと良く似た名前のメディアです。
位置はリディアの東隣で、首都はエクバタナ。

メディア

リディアと同じくインド=ヨーロッパ語族の国で、BC8世紀末~BC550年に存在したイラン人の最初の国家です。
BC612年にバビロニアとともに、アッシリアを滅ぼしましたが、こちらもアケメネス朝のキュロス2世に滅ぼされます。

メディアについての記録はあまり発見されておりませんが、ハルパゴスの復讐、という話があります。
ちょっとグロい話なので、苦手な方は飛ばしてくださいね。

ハルパゴスの復讐

メディア王アステュアゲスの部下にハルパゴスという人がいました。
結論から言っておくと、ハルパゴスの裏切りによりメディアは滅ぶので、アステュアゲスはメディア王国最後の王ということになります。

ある日ハルパゴスは、アステュアゲス王より命令を受けます。
まだ赤子であったキュロス2世を殺せという命令です。

なぜアステュアゲス王がそんな命令を出したのでしょうか?

アステュアゲス王にはマンダネという娘がいました。
アステュアゲスは、マンダネがメディアの都エクバタナを水で溢れさせる夢を見ます。
この夢を、【王位を脅かされる不吉な夢】と考えたアステュアゲス王は、娘のマンダネを格下のカンビュセス1世に嫁がせるのです。

そしてまたアステュアゲス王は夢を見ます。
今度は、アジア全体が葡萄の木で覆われてしまう夢です。

これも不吉な夢と恐れたアステュアゲス王。
そしてマンダネが身ごもっているのを知ります。
アステュゲス王は、マンダネの子供が生まれたら殺せ、と命令を出すのです。

この子供こそ、後のキュロス2世。
アケメネス朝ペルシアの初代国王です。
だから、アステュゲス王のこの夢はあながち妄想でもなかったのかも知れません。

そして子供を殺せ、すなわちキュロス二世を殺せ、と命令を受けたのが部下のハルパゴスです。
不吉な夢を見たくらいで自分の孫を殺せというくらいの王ですから、この王はおかしいんじゃないか?とハルパゴスは考えます。

赤子を殺したとしても、その罪を負わされて自分が殺されてしまうかも知れない。
ならば自分の家来に殺させることにしよう、と考えます。

手下に命令したのはいいのですが、この家来は死産を経験したばかり。
哀れに思った家来は、赤子を殺さずに密かに育てるのです。

このことを、アステュアゲス王が知ってしまいます。
ハルパゴスは王に問いただされ、真実を話します。
王はこの時怒りをあらわにはしなかったのですが・・・ここからが恐ろしい。

アステュゲス王は、ハルパゴスの13歳の息子を呼びつけ殺してしまうのです。
そして殺したハルパゴスの息子を料理します。

例えの【料理】ではなく、【肉料理として調理した】ということです。

そしてハルパゴスを招いて宴会を開き、その宴会の席で調理したハルパゴスの息子を食べさせます。

料理を食べ終わった後、アステュアゲス王は尋ねます。

「ハルパゴスよ、料理は美味かったか?」

と。

ハルパゴスは

「美味かった」

と答えます。

そこで王は息子の遺体を見せ、

「お前の食べた肉が何の肉かわかったか?」

と尋ねるのです。

ハルパゴスは驚きもせず

「王のすることならば全て満足だ。」

と答えるのです。
そして遺体の残りを持って帰ります。

世界史では結構残酷な話は多いのですが、さすがに教科書に載せるわけにはいかないみたいですね。
実の息子を親に食べさせる話はいくらなんでもショッキングです。

さて、息子を殺されたハルパゴス。
王の前では怒りを沈め、その胸に怒りを秘めたまま、アステュアゲス王に仕え続けます。

そして密かにキュロス2世に近づき、裏工作を進めるのです。

全ての準備をととのえたハルパゴスは、キュロス二世にメディアへの反乱を起こさせます。
この時アステュアゲス王は、キュロス2世討伐の総司令官にハルパゴスを指名するのです。

戦いが始まるとハルパゴスは当然裏切り、キュロス二世はメディアを征服、アステュアゲスを奴隷にします。
この時、ハルパゴスはアステュアゲスを激しくののしったそうです。

その後、ハルパゴスはアケメネス朝ペルシアの将軍としてキュロス二世の元で活躍します。
これが、【ハルパゴスの復讐】という話です。

ちなみにこの場面、ヒストリエという漫画の第一巻でも描かれています。
Revenge-of-harupagos1
ここが肉を食べさせられた場面。

revangepfharupagos2
これがその数年後に裏切った場面。
(ヒストリエ1巻より/岩明均)

このば〜〜〜っかじゃねぇの?は色々いじられてるので知ってる方も多いかも知れません。

4王国の特徴-新バビロニア

新バビロニアはカルデアとも呼ばれる、セム語系カルデア人の国です。
都は当然バビロンですね。BC625年~BC538年まで栄えました。
肥沃な三日月地帯を支配しましたが、これもアケメネス朝に滅ぼされます。

4王国の中ではもっとも勢力が強く、この王国の最盛期の王が、あのネブカドネザル2世です。
ネブカドネザル2世が何をしたのか、覚えてますか?

ものすごく重要なので念のため言っておくと、【バビロン捕囚】 です。
BC586年にユダ王国を滅ぼしたのがネブカドネザル2世です。

ネブカドネザル二世ときたらバビロン捕囚くらいに覚えておいて下さい。
メディアと同盟を組んでアッシリアを滅ぼした国でもあります。

リディアやメディアの様に面白い話しは無いですが、バビロン捕囚という事件がありますので、これで十分でしょう。

ネブカドネザルは空中庭園やイシュタル門を建設したことで有名です。

バビロン空中庭園

イシュタル門復元

イシュタル門は復元です。

4王国の特徴-軽くまとめ

色々話が長くなったので、ちょっとまとめてみます。

アッシリア崩壊後のオリエントには以下の四王国が分立することになりました。

■エジプト
■リディア
■メディア
■新バビロニア

【エジプト】
新王国時代。第25王朝時代に征服され、第26王朝が成立しますが、これはアッシリアの総督サイス家でこの第26王朝が最後の王朝。

【リディア】
小アジア(アナトリア半島、現在のトルコ)に成立。インド=ヨーロッパ語族。メディアの西隣り。世界最古の鋳造貨幣を使用。
自分の妻大好きのカンダウレス王から、ギュゲスへの交代劇があった。

【メディア】
リディアの東隣り。インド=ヨーロッパ語族でイラン人の最初の国家。
バビロニアと同盟を組み、アッシリアを滅ぼす。
ハルパゴスの復讐により、アケメネス朝に滅ぼされる。

【新バビロニア】
最盛期はネブカドネザル2世の頃。セム語系カルデア人の国。
バビロン捕囚。イシュタル門、空中庭園の建設。
肥沃な三日月地帯を支配し、4王国の中で最も勢力が強かった。

ここまでお疲れ様でした。

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