オリエントと地中海世界 第一章

8.東地中海世界

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東地中海世界の民族

地中海の位置をまずは抑えておきましょう。ぱっと地図が浮かぶでしょうか?

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大航海時代が始まるまでは、中国と並びこの周辺が世界史の中心。
ここまで出てきた数々の国も、全て地中海沿岸地域です。
この章では、地中海東岸、シリア・パレスチナ地方の歴史を見てみましょう。

エジプト・ヒッタイトの後退

シリア・パレスチナ地方は、エジプトとメソポタミアを結ぶ通路として栄えました。
紀元前1500年頃からセム語系のカナーン人が活躍していましたが、ギリシア・エーゲ海方面からの【海の民】の進出により、この地方を支配していたエジプト・ヒッタイトの勢力が後退します。

場所をおさえておきます。

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思いっきり、シリアと書いてありますね。大体でいいので把握することが大事。
西に見える湖のようなものが地中海です。

パレスチナはどこかというと、正確に言えばパレスチナ自治区ということになりまして、これは時代と共に変化します。
世界史を学ぶ上ではパレスチナ地方という感じで覚えておくと良いと思います。
上の地図で言えば、イスラエル、ヨルダン、レバノンあたりです。

ついでに復習です。緑色がヒッタイト、オレンジがミタンニ、黄色がカッシート。青がが下エジプトの首都メンフィス。赤が上エジプトの首都テーベです。

シリア・パレスチナ地域はエジプトとメソポタミアのちょうど間に位置するのがわかります。
パレスチナはカナーンと呼ばれいたため、ここに住んでいた人々をカナーン人と呼びます。
カナーン人はヘブライ人に従属することとなります。

海の民

BC(紀元前)13世紀~BC12世紀にかけて、船団を組んで東地中海一帯を襲った系統不明の諸民族の呼称です。
ヒッタイト王国を滅ぼし、エジプト新王国を衰退させるほどの影響力があったのですが、民族系統は不明です。

海の民は、東地中海一帯の諸国家、諸都市を攻撃し広い地域を混乱させました。
海の民出現後、セム語系のアラム人・フェニキア人・ヘブライ人の三民族が活躍することになります。

アラム人

アラム人はセム語系の遊牧民でBC12世紀~BC8世紀にシリアを中心に多くの小王国を形成しました。
内陸の中継貿易で活躍しましたが、BC8世紀にアッシリアに服属することとなります。

アラム人が活躍した地域の中心にあるのがダマスクスです。
BC10世紀頃にアラム人が建国した小王国の首都で、現代ではシリアの首都となっています。
世界で最も古くから人が住みつづけている都市、としても知られています。

Damascus

Damascus

アラム語とアラム文字

アラム人が話した言葉がアラム語。
最古の西方セム語系言語のひとつとされ、アラム人の交易活動によって西アジアの国際商業語となりました。
のちに、アッシリア・新バビロニア・アケメネス朝の公用語になります。

アラム文字は22の子音からできている、表音文字です。
中東に存在する文字はほとんどがアラム文字からの派生とされています。
フェニキア文字を転用する形で作られ、現代のヘブライ文字、アラビア文字、チベット文字などの母体となった文字です。

一部ですが、こちらがアラム文字との比較です。
どれも良く似ているのがわかります。

Aramaic

詳しくはWikipediaをどうぞ→アラム文字

フェニキア人

フェニキア人は、セム語系民族でカナーン人の一派から発展したと考えられています。
カナーン人は現在のパレスチナ地方の先住民族です。最終的にはヘブライ人に従属します。
その昔、パレスチナがカナーンと呼ばれていたことがカナーン人の由来でしたね。

フェニキア人は現在のレバノン海岸に多くの都市国家を建設し、BC12世紀頃から地中海の交易をほぼ独占します。
その活動の範囲は、黒海や紅海沿岸にまで広がって、地中海沿岸に植民市を建設するのです。

場所は大丈夫だと思いますが、念のため地図を貼っておきます。

Lebanon

フェニキア人の都市国家

フェニキア人の都市国家として有名なのが、シドンとティルス。
どちらも、港を中心に栄えた海港都市です。

フェニキア人は優れた商人であり、BC12世紀ころから何世紀もの間、地中海世界の主役でした。
シドンはBC12世紀頃からBC6世紀頃まで、バビロニアに滅ぼされるまで繁栄します。

ティルスも同じくBC12世紀頃から繁栄し、BC814年頃、北アフリカに植民市を建設します。
この植民市が、のちにハンニバル将軍が活躍するカルタゴです。
カルタゴは現在では、カルタゴ遺跡として残っています。

場所は、チュニジア共和国の首都チュニスの東です。
地図を用意してあります。確認しましょう。

チュニジアはアフリカ大陸の北部にある国。
アフリカ大陸とはいえ、地中海沿岸でヨーロッパに近いため、一般的なアフリカのイメージとは程遠い、現代的な都市です。

Carthage

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ローマを扱う際にまた出てきますので、名前だけ覚えておきましょう。
最終的には他の諸都市と同様に、アッシリア、新バビロニア、アケメネス朝に服属しますが、その後も海上貿易に従事しています。

フェニキア人の文化史上の功績

これは何と言っても、フェニキア文字を作り出したことです。
フェニキア文字はシナイ文字を元に作られた22の子音からなる表音文字で、カナーン人が使用していたとされています。

アラム文字について先述しましたが、アラム文字はフェニキア文字影響を受けて作られています。
この二つの言語には22の子音からなる、という共通点が見られます。
子音、というのは日本語で言えば【あいうえお】以外の言葉です。

フェニキア文字は、フェニキア人の交易活動に伴って東地中海沿岸に伝わります。
これがBC8世紀にギリシア人に受け入れられ、アルファベットの源流となるのです。

私達が使用しているアルファベットはこの時代に源流があるのです。
今からから3000年も前の話です。この頃の文化がいかに発達したものかがわかります。

ヘブライ人・イスラエル人・ユダヤ人

ヘブライ人は、世界史上における最も有名な民族かも知れません。
彼ら自身は自らをイスラエル人とし、バビロン捕囚後は歴史上ユダヤ人と呼ばれます。
現代のイスラエル人や、ユダヤ人とは定義が異なります。

現代では以下のように分類されるのが一般的です。

ユダヤ人:ユダヤ教徒
ヘブライ人:古代イスラエル人の末裔
イスラエル人:イスラエル国籍を有する人

アメリカに住むユダヤ人もいれば、イスラエルに住んでいてもイスラエル人でないという人もいます。
世界史で学ぶ際は、ユダヤ人とイスラエル人は基本的には同じと考えてもそれほど問題はありません。

一般的にユダヤ人と書いてあることが多いです。本サイトでもほぼ同義と思ってもらって大丈夫です。
この辺りは非常にデリケートな問題ですが、世界史学習の上では、ということですので興味があればルーツなどを調べてみてください。

世界史においてヘブライ人(ユダヤ人)は多くの場面に登場します。
その多くは迫害と差別の歴史です。
これは現代でも拭い去ることができておらず、パレスチナ問題を始めとする様々な問題が残っています。

遊牧民であったヘブライ人

セム語系民族であるヘブライ人は、ユーフラテス川上流地域で遊牧生活を送っていましたが、BC1500年頃にパレスチナに移住し、一部はエジプトへ移住します(このエジプトに移住した人々が、出エジプトを経験する人々です)

ヘブライとは、【越える】という意味で、ユーフラテス川を越えてきたのでヘブライ人と呼ばれますが、彼ら自身はイスラエル人と自称していました。
BC1000年頃パレスチナに王国を建設しますが、BC922年頃に北のイスラエル王国と南のユダ王国に分裂します。

預言者モーセ

世界史が苦手な人でも、モーセ(モーゼ)という名前を聞いたことはあるでしょう。
どんな人物かは知らなくても、海を真っ二つに割った、という話は知っているのでは無いでしょうか。
海を割った人物がモーセです。映画「十戒」でも有名な場面です。

時代が時代なので自画像などは全く残ってませんが、後世の芸術家達が想像のモーセをたくさん残しています。
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レンブラント作のモーセ。

遊牧民であったヘブライ人は、一部がエジプトへ、残りがパレスチナへと移住します。
エジプトへ移住したヘブライ人ですが、エジプト新王国の圧政に苦しむこととなります。

エジプト新王国は覚えていますか?
アメンホテプ4世の時代の話です。念のため、一度地図を見ておきましょう。

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赤のテーベが中王国・新王国の都でした。
シリア・パレスチナ地方との位置関係も覚えておきましょう。

出エジプト

エジプト新王国で圧政に苦しんでいたヘブライ人は、パレスチナへの脱出を決意します。
この脱出を率いたのがモーセです。BC13世紀頃の話です。
ヘブライ人は奴隷として働かされていました。

モーセはある日シナイ山にて、神ヤハウェからお告げを授かります。
苦しんでいる同胞を救い出し、約束の地(神が授ける安住の地)へ行け、と。

約束の地とはカナーンのことで、現在のパレスチナです。
最初モーセは、そんなこと自分に出来るわけがないと断ります。

なぜなら、この時モーセは80歳。
しかも、若い頃に支配者であるエジプト人兵士を殺していたがために、国外に亡命中の身。
遊牧民としてひっそりと暮らしていました。
いくら神のお告げとはいえ、かなり厳しいですよね。

しかし神ヤハウェはモーセに、「ファラオ(王)の所へ行って、同胞を連れ出す交渉をしろ」と言います。
無茶ぶりにも程があります。

モーセは必死で断るのですが、ヤハウェも「やれ」の一点張り。
モーセが出来ない理由を言っても、ヤハウェがこうすれば出来るからやりなさい、と言う。

最終的には神ヤハウェが、大丈夫だからとにかくやりなさい、と交渉を打ち切ります。
神の言葉ですからモーセも逆らうわけにはいきません。やるしかない。

ついに同胞を連れてエジプトを脱出。当然、追手がかかります。

逃げるモーセと同胞たち。しかし行く先には紅海が広がり、ついに追い詰められてしまいます。
ここであの有名な【海を割る】という奇跡を起こすのです。

割れた海は紅海だったのです。
モーセ達が無事に渡り終えると、海は元に戻り追手は全滅してしまいます。

地図で見れば分かる通り、紅海が行く手を阻んでいます。
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海を割るモーセ。
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そして、紅海を渡った後、シナイ山にてヤハウェから「十戒」を授かるのです。
内容を掲載しておきます。

1,あなたは私の他に、何者をも神としてはならない
2,あなたは自分のために刻んだ像を作ってはならない
3,あなたは、あなたの神、主の名前をみだりに唱えてはならない
4,安息日を覚えて、これを聖とせよ。主は6日のうちに天と地と海とその中の全てのものを作って、7日目にやすんだからである。
5,あなたの父と母を敬え
6,あなたは殺してはならない
7,あなたは姦淫してはならない
8,あなたは盗んではならない
9,あなたは隣人について、偽証してはならない
10,あなたは隣人の家をむさぼってはならない。

覚える必要はないですが、これらはユダヤ教の根本思想であり、キリスト教やイスラム教の源流でもあります。
【1】は一神教、【2】は偶像崇拝の禁止、を表していますね。

モーセ自身はパレスチナを目前に死んでしまいますが、この苦難の歴史から、唯一神ヤハウェの信仰が誕生します。

姦淫、という言葉が少し難しいかも知れません。
【かんいん】と読み、簡単に言えば【不正な性行為】ということです。

例えば不倫などはこれにあたりますね。
もう少し付け加えると、同性愛や、女性の未婚状態での性行為もこれにあたります。
無論、これはユダヤ教における宗教上の話です。

【4】などは、何か思いつくことはありませんか?
そう、これは現代の一週間です。
神であるヤハウェが天地創造をし7日目に休んだから、今も一週間は7日で日曜日があるのです。

宗教と世界史

本当はもっと長い長い話なのですが、全部扱っていると世界史というよりは宗教学になってしまうくらい長いので、かなり省いています。

興味がある人は【旧約聖書】を読んでみましょう。
実はこれ、【旧約聖書】の【出エジプト記】という話なのです。
ついでに言うと、著者はモーセです。

聖書というと毛嫌いする人が多いのですが、色々な物語が書いてある読み物だと思えばいいです。
有名な【ノアの方舟】は映画や漫画の題材になっていますが、元々は聖書の中の話です。

ネットで口語訳を掲載しているサイトがありましたので紹介しておきます。
出エジプト記―口語訳(Wikisourceより)

キリスト教やイスラム教にしてもそうですが、世界史を学習する上で宗教は切っても切れない存在です。

キリスト教を国として公認し、その力を使って国を統治しようとした時代もありました。
日本でも仏教で国を治めよう、という鎮護国家という考えがありました。

日本では宗教の話をするとなんだか怪しげ、と毛嫌いする人が多いのですが、現代のゲームや漫画においてもこういった話を元にしているものが、実は多数存在します。

有名どころでは、エヴァンゲリオン。宗教用語がバンバン出てきます。
使徒、というのはキリストの弟子のことで、アダムとイヴ(エヴァ)は人類の始まりの二人とされています。

ゲームでも宗教や神話が使われていることが多いので知っていると楽しいと思います。
パズドラにも、色々な神が登場するでしょう?あれは神話の神です。

しかしながら、宗教の話を深く掘り下げてしまうと悲しいかな、怪しいサイトと思われてしまう可能性も大きい。
特に日本では、宗教と聞くだけで反射的に嫌ってしまう人が多いです。

このサイトは、少しでも多くの世界史嫌いの人のために書いています。
反射的に嫌いと思われると悲しいので、掘り下げすぎるのはやめておきます。

ただし、きっちりと世界史を学習すると宗教の見方もきっと変化することでしょう。
現代人の生き方や考え方に関わる部分なので、知ると結構面白いですから、毛嫌いせずに読んでもらえればと思います。

さて、話をもとに戻しましょう。

ダヴィデ王・ソロモン王

エジプトを脱出し、パレスチナに集結したヘブライ人は、BC1000年頃ヘブライ王国を建設します。
有名な王がヘブライ王国第2代の王ダヴィデ(BC1000頃~BC960頃)と、第3代の王ソロモン(BC960頃~BC922頃)です。
イスラム教においては、どちらも預言者として名を連ねています。

ダヴィデ王の頃、イェルサレムがヘブライ王国の中心都市となり最盛期を迎えます。
続くソロモン王の頃には交易が盛んになり、ヤハウェの神殿を建築するなどして【ソロモンの栄華】とよ呼ばれる繁栄を迎えます。

ソロモン王は知者として知られていて、有名なのがソロモンの裁判という絵。
ルネサンス期に描かれた絵画です。

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女の子を巡って二人の女性が、「この子の親は私である」とソロモンに主張する。
ソロモンは裁判で兵士にこう命令します。

「では引き裂いて2つにし、半分ずつ与えよ」と。

一方の女性【A】が、「私の子で無くなってもいいから、殺すのはやめて」と言い、もう一方の女性【B】は、「どちらのものにもしなくていいから、裂いて分けて下さい」と言う。

すかさずソロモンが、「子供を殺さず【A】の女性に与えよ、そちらが母親だ」と言うのです。
この裁判は国中に知れ渡り、こんなに頭のいい王様がいたら、国は安泰だと国民は安心します。

事実、ソロモン王の時代に領土は最大となります。

イェルサレムはユダヤ教の聖地となりますが、後にキリスト教やイスラム教の聖地にもなりました。
これが現代まで続く三教徒間の争いの火種になるのです。

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ソロモン王の死後、ヘブライ王国は北のイスラエル王国と南のユダ王国に分裂し、北のイスラエル王国はBC722年アッシリアに征服され滅亡。
南のユダ王国はBC586年、新バビロニアにより滅ぼされバビロン捕囚を経験することになります。

バビロン捕囚


新バビロニアに滅ぼされたユダ王国の住民は、その多くがバビロンに強制移住させられました。
これがバビロン捕囚です。
ちなみに英語で言うとExile。どこかで聞いたことある名前ですね。

BC586年、新バビロニアのネブカドネザル二世は、王ホエヤキムと有力な若者を殺害しユダ王国を滅ぼします。
そして多くの住民をバビロンへと連れ去るのです。

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新バビロニアを滅ぼしたアケメネス朝のキュロス2世により、BC538年に解放されますが、囚われている間に様々な苦難を経験します。
この苦難の歴史を通し、ユダヤ人(ヘブライ人)は選民思想(せんみんしそう)という考えを生み出します。
これは現代までつながる根底の思想ですので、詳しく説明します。

選民思想

選民思想とは、簡単に言ってしまえば【自分たちは選ばれし民である】という考えです。
選ばれし民とはもちろんユダヤ人のことで、選ぶのはヤハウェです。

つまり、ヤハウェによって選ばれたのはユダヤ人である、そして選ばれたユダヤ人だけが救われる、という考えを選民思想といいます。

モーセによる出エジプト、ネブカドネザル2世によるバビロン捕囚。
これらはどちらも、ユダヤ人に苦難を与えました。

しかし、神ヤハウェを信仰しているのですから、ユダヤ人は救われるはずです。
救われたいからこそ、宗教を信じているのです。
しかし救われない。苦難の歴史でしかない。

ここでユダヤ人は考えるのです。

神ヤハウェは我々にあえて苦難を与えているのだ。
我々がこんなにひどい目にあうのは、我々が選ばれた民であるからだ。
この苦難の先に、救いがあるのだ、と。

宗教の究極的な形だと思います。
こうなると、何が起ころうとヤハウェ信仰は無くなりません。
辛ければ、それはその先に待つ幸福のための試練。
幸せならば、これは信仰によるものだ、となるのです。

そして、この苦難を救い出すのがメシア(救世主)で、いつかメシアが現れて我々を救ってくれる、という考え方を【メシア待望論】などといいます。
この考え方はユダヤ教だけではなく他の宗教にも見られますが、ユダヤ民族を破滅から救うもの、というのがルーツです。

この選民思想とメシア待望論があるからこそ、どんな苦難にもユダヤ人は耐え抜くのです。

しかし本来、宗教は万人を救うもののはずです。
選民思想は民族的な差別が含まれます。
これを否定するのが、イエス・キリストなのです。

メシアとイエス・キリストの関係について補足しておくと、メシア=イエス・キリスト、と思っていても一般的にはそれほど問題はありません。
メシア、とはもともとヘブライ語で「膏(あぶら)をそそがれた者」という意味を持ちます。
膏(油)は聖なるものの象徴で、これを注がれたものは聖者である、という意味です。

キリストは30歳の時に、聖霊から油を注がれメシアとなったのです。
ちなみに、キリスト自身はユダヤ教の信者です。

ユダヤ教の成立とキリスト教

BC538年に新バビロニアを滅ぼしたアケメネス朝のキュロス2世により、ユダヤ人はバビロン捕囚から解放されます。
そしてユダヤ人は、イェルサレムにヤハウェの神殿を再興し、ユダヤ教を確立させます。

この時から、イェルサレムはユダヤ教の聖地、となります。

ユダヤ教が確立したものの、やがてその祈りや信仰は形式化してしまいます。
戒律(ルール)を守ることだけを重視して、実際に救われるかどうかは関係なくなってきます。
簡単に言えば、神への信仰心が薄れてきてしまったということです。

しかもこの時代イェルサレムはローマの支配下にあって、ユダヤ教の祭司はユダヤ人の支配者として、ローマに協力していたのです。
支配するユダヤ人と支配されるユダヤ人に分かれてしまい、支配される人々は重税と厳しい罰に苦しみます。

支配される側は重税により、戒律を守っていると生きていけなくなるのです。
お金を稼ぐためには、戒律を破っても稼がなくてはなりません。
例えば、売春行為などです。

戒律を破ったら救われなくなります。天国に行けません。

生きるためにお金が必要、お金を稼ぐためには戒律を破らなければならない。
つまり、お金がなければ天国に行けない、という図式が成り立ってしまうのです。

これでは、何のための宗教なのかわからなくなってしまいますね。
そんな中で誕生するのがイエス・キリストです。

イエス自身は、ユダヤ教徒の家に生まれます。イエス自身もユダヤ教徒です。
イエスはローマとともにユダヤ人を支配していたユダヤ教の祭司や、パリサイ派と呼ばれる支配層の考え方に疑問を持ちます。
本来は万人を救うはずの宗教なのに、懸命に生きている人が救われないのはおかしい、と思うわけです。

そこで、イエスは教えを説くのです。
戒律を破っても大丈夫、神は我々を救ってくださる、神を愛せ、と。

【神への愛と隣人愛】というのが有名な教えですが、自分を愛するように隣人(誰でも)を愛せ、そして神を愛せ、そうすれば誰であろうと救われる、というのです。

この時代ユダヤ教徒たちは、支配者層に搾取され、貧しい生活を送り、神にも救われないどん底の生活を送っていましたから、これがどれだけ救いになったかは、想像に難くないですね。

キリスト教の基本的な考え方はユダヤ教の教えを引き継いでいます。
ユダヤ教とキリスト教は兄弟みたいなもので、旧約聖書はユダヤ教の教典でもあり、キリスト教の教典でもあります。

唯一神ヤハウェは、ユダヤ教の神でもありキリスト教の神でもあります。
キリスト教については、ローマのところで更に詳しく触れます。

ところで、イエス誕生が紀元1年、つまり西暦1年と思いがちですが、実はBC4年頃の生まれです。
最近の研究でわかってきたことなので、いまさら西暦を4年戻すことも出来ませんけどね。

紀元前を表す記号BCは【Before Christ】つまりキリスト生誕前、という意味で、紀元後を表す記号ADは【Anno Domini】これはラテン語です。
【主の年】という意味。

なぜラテン語なのかといえば、制定されたのが6世紀頃のローマで、この頃はラテン語が公用語だったためといわれています。
BCは17~18世紀頃に制定されています。

旧約聖書と新約聖書

旧約聖書はヘブライ人の伝承や、神への賛歌、預言者の言葉を集めたもので、BC10世紀~BC1世紀の間にまとめられたユダヤ教の教典です。

新約聖書はイエスの教えをまとめたものです。
新約、とは新たな契約という意味です。

日本では一般的にどちらも聖書と呼ばれ、旧約と新約の違いも良くわからない人も多いと思いますが、こういった違いがあるこ
とは覚えておくと良いと思います。

ちなみに、聖書を英語で言うとBible(バイブル)です。
この言葉は良く聞いたことがあるのではないでしょうか?
【~~のバイブル】という言い方で良く使われますね。
聖書は世界で一番売れている本で、発行部数はハッキリ把握仕切れないほど。
60億冊~150億冊がこれまでに発行されていると推測されます。

旧約聖書の教えの中には、ノアの箱舟や、モーセ、アダムとイブ、カインとアベル、など私達が聞いたことがある物語も多数掲載されています。

ノアの箱舟は実在したとされる研究結果も実はあったりします。
ヨーロッパ人の思想、芸術活動の源泉となったのが旧約聖書なのです。
これが、芸術思想として大きく開花したのが、ルネッサンス期というわけです。

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