村から都市へ
灌漑農業(かんがいのうぎょう)が発達したメソポタミア南部では、都市文明が栄え、その富を求めて多くの民族が流入してきました。
紀元前3,500年ころから急激に人口が増え、神殿を中心に数多くの村が成立し、そのうち大村落を作ります。
やがて、交易の記録や統率者による人民の管理の為に文字が発明されます。
つまり、人が増えることで、色々と管理が必要になるわけです。どこに誰が住んでいる、とかどこの誰とどんな取引をしたのか?という記録をしておかないと、あとでトラブルになってしまいます。
記録をするためには、なにかの形に残しておかなくてはなりません。そのために、記号や文字が発明されました。
楔形文字(くさびがたもじ)がその代表例で、シュメール人が発明しました。
さらに、銅や青銅器などの金属器が普及し始め、前3,000年頃には、神官・戦士・職人・商人などの数も増え始めます。
職業とともに人々の数も増え、大村落はやがて都市へと発展します。
神官・戦士・職人・商人が増加するというのは、実はかなり重要なことです。
なぜかと言うと、自分で食べ物を作らなくても生きていける人々が増えてきたということだからです。
現代日本では、米農家や野菜農家は少数派です。
つまり、自分で食べ物を生産をしなくても生きていける人たちがたくさんいるということです。
当たり前に思うかも知れませんが、古代社会からすると劇的な変化なのです。
専門職の発生と都市の形成
古代社会では、食べていくためには自給自足が原則です。自分で食料を獲得する必要がありました。
これは、獲得経済から生産経済(狩猟→農業)に移行しても同じことです。
自分達で食べる分の食料を自分たちで生産するのが当たり前でした。
しかし、食料が豊富につくれるようになってくると、そのうち余りが生じます。
余るということは、全員で食料をつくる活動をしなくても良いということです。
現代社会に生きる人が全員農家をやったら、おそらく農作物が余ります。
多くの人が、自分で食料をつくらず、お金で買っていると思います。これと同じことが古代で起こったのです。
食料をもらう代わりに村を守る戦士や、道具を作る職人など職業を専門化することが出来るようになります。
専門職に特化したほうが、より良い物が出来ますし、効率も良いからです。
このように様々な職業の人が集まって都市が形成されていきます。
シュメール人都市国家
発展した都市は、神殿を中心とする都市国家を形成します。
代表的なものはウル・ウルク・ラガシュなどのシュメール人の都市国家です。
前2700年ころに形成されました。メソポタミア地方南部です。地図で確認しましょう。
まずメソポタミア地方、と聞いたらこのあたりの地図が思い浮かぶと非常に良いです。
焦らなくても大丈夫。段々思い浮かぶようになります。
イラン、イラクのあたり、ペルシャ湾近くにシュメール人都市国家は築かれました。
ウルはユーフラテス川下流域の右岸に、シュメール人が建設した都市国家です。
王墓(おうぼ)からは、殉死者(じゅんししゃ)がや黄金製の副葬品が発見されています。
似たような名前の「ウルク」はウルよりも上流にあります。
現在ではワルカと呼ばれる場所です。
これもシュメール人の都市国家で、円筒印章(えんとういんしょう)や文字が発見されました。
円筒印章の画像です。コロコロ転がすことで文字を写す仕組み。
主に所有者情報を記載していたようです。
パピルス(今でいう紙)が使われるようになると円筒印章も使われなくなりました。
ラガシュは更に北方で、これもシュメール人の都市国家です。
なんとなくで大丈夫です。ウル、ウルク、ラガシュ、がメソポタミア地方(いまのイラン、イラクあたり)と思えれば大丈夫。
階級の発生
シュメール人が築いた都市国家を始めとした国家では、王が中心となり、神官・役人・戦士などが都市の神をまつるようになります。
彼らは、政治や経済の実権を握って人々を支配するようになりました。階級社会の誕生です。
普通に生きてる人よりも、神官とか戦士のほうが偉い、ということです。
現代日本は平等社会ですね。
誰が偉いとか、自分より階級が上の人には従わないといけないということはありません。
もちろん、会社や学校やチームなどは、その中でだけ適用される階級があります。
例えば、会社では部長より社長が決めたことが優先されるのは当然です。
でも、隣の家の人よりあなたが偉いとか偉くない、ということは無いはずです。
しかし、この時代は違いました。
生まれながらにして階級が決まっているので、極端に言えば死なない限り、その階級から解放されることはありません。
日本でもひと昔前まで、士族階級というものがありました。要するに武士です。
武士は農民や商人より偉かったので、無礼なことがあれば切り捨てても罪に問われない、という時代もありました。
いまはそんなことをしたら、誰であろうと法律で裁かれます。すべての人は法律の前に平等、というのがいまの日本です。
しかしこれも、明治時代になってやっと出来た考え方です。それだけ階級社会というのは長く続いていたということです。
では、階級はどのように生まれ、どのように社会に影響をあたえるのでしょうか?
ちからが階級を生む
階級の上位職は、神官・戦士・役人などです。
彼らは権威を持っています。権威というのは、ちからです。
戦士にとっての力は、そのまま力(パワー:武力)ですが、神官や役人は権威を力として使います。
神官には神の補佐役としての権威。
役人はさらにその補佐役としての権威です。
権威とは簡単に言うと、みんながスゴイと思うことです。
例えば王様は、何がスゴイかよくわからないけど、王様だからスゴイわけです。
王様が言うことには皆が従わなければなりません。
みんながスゴイと思っているから、その王様に逆らうことは出来ません。
例えば、世界中で人気のある人にたいして、あなたが意地悪をしたとしましょう。
そうすると、その人気者を支持する人からどんな仕返しをされるかわかったもんじゃありませんね。
だから、誰も何もしない。王の権威というのはこういう構図の上に成り立っています。
神の声が聞こえるからスゴイ?
当然、本当に実力が伴った権威もあります。
世界的に有名な学者や研究者は、世界的権威と呼ばれることがあります。
彼らが発することは、他の学者や研究者がいうことよりも信頼度が高くなります。
では、神官や役人はどうでしょうか?
神官や役人になるのは勉強が必要ではありますが、最初は言ったもん勝ちだったのではないかなと思います。
私は神の声が聴こえるのだ、と言えば「それはスゴイ」ということになるでしょう。
ただし、職業が生まれた当初は、本当にそれが必要とされていたわけですから、インチキだなんてことはありません。
もしかしたら、病気で苦しんでいるひとのために、神官が「神さまがあなたは救われるから大丈夫」といえば、病気の人の苦しみもやわらぐかもしれません。
そうすると、あのひとは神の声が聞こえるから、私も神さまと話がしたい、と思う人がたくさん出てきてもおかしくありません。
その職業についていた人々も、自分が他より偉い、という風には思っていなかったかも知れません。
しかし、職業が固定化されていくとそれが階級となります。
代々神官の家柄、とか、代々戦士の家柄、とか、何代も続いていると、なんとなくスゴイ気がして来ませんか?
人間は入れ替わってるのに権威は受け継がれるのです。
父親と息子は違うのに、父親が最強の戦士だったら、息子もなんとなくスゴそうな気がしませんか?
もちろん、普通の父親と過ごすよりは、目の前で最強の戦士を見ているわけですから、戦士になるための環境としては恵まれていると思います。
しかし、よく考えてみれば、全く別の人間なのです。
ところが、現代社会でも階級社会の考え方は残っています。
あなたも意識せず、あそこの家は代々○○だから、とか、両親が○○だから、とか思ったりしませんか?漫画や映画でもよく使われますね。
これが良いとか悪いとかではなく、人間てそういうものなんだよね、ということなのです。
階級社会の上位にいる彼らは、自分たちの階級をさらに高めようとします。
例えば儀式を増やしたり、自分たちだけの特別な言葉を使ったりするのです。
日本でわかりやすく言えば、神社やお寺がこれにあたります。
神社をお参りする際には、色々と決まり事がありますね。
神さまにお願いをする時は、神官が呪文を唱えたり、御札を書いたり、色々な決まりごとあります。
お寺でお葬式をしたり、修行をしたりする時も、聞いたことのない呪文(お経)を唱えたりします。
日本ではこれが、階級として上とか下、ということはありません。
しかしこの時代の庶民からすれば、自分たちにわからない言葉で呪文を唱え、難しい決まりごとをよく知っている神官、というのはまさに神との対話者として考えられていたと思います。
つまり、儀式が出来る階級はスゴイ、特別な言葉を使える階級はスゴイ、となるわけです。
権威を高める為に、神秘化させたり、儀式を複雑化させる方法はよく使われる手法です。
そういえば、意外に思うかも知れませんが、イギリスは階級社会です。
イギリスは王政の国ですので王もいます。
貴族院という、代々受け継がれる国会議員の家柄もあります。
ただし、貴族だから何をしても許される、というようなことではありません。
神殿=ジッグラト
上位階級の人々は、ジッグラトと呼ばれる神殿で都市の神をまつります。
ジッグラトは聖塔とも呼ばれますが、実際は塔のような形ではなく、下の画像のような形です。
もしかしたら、バベルの塔、というの言葉を聞いたことがあるかもしれません。マンガやゲームでも良く出てきます。
このバベルの塔も、ジッグラトのひとつ、要するに神殿でした。
ごちゃまぜに覚えてしまっている人がいて、ジッグラト=バベルの塔だと思っているひとがいますが、正確には違います。
バビロンにあるジッグラト限定で、バベルの塔(バビロンタワー)です。
ジッグラトは色々な地域にありますので、全部が全部バベルの塔ではありません。
日本のジッグラトは神社(ジャパンタワー)という風に考えればいいと思います。
バベルの塔の画像も貼っておきますね。
ついでなので、バベルの塔の話をしようと思います。本筋とは関係無いですがちょっとひと息つきましょう。
バベルの塔の物語
バベルの塔を聞いたことがあっても、なぜバベルの塔だけが、あなたの記憶に残っているのか?
その物語の内容までは知っているでしょうか?
なんとなくバベルの塔って聞いたことがあるけど、実際バベルの塔ってなに?と思ってませんか?
ということで、バベルの塔とはなにか、その物語をお話します。
旧約聖書の物語
バベルの塔が登場するのは、旧約聖書です。つまり物語のひとつなのです。
旧約聖書はキリスト教、ユダヤ教の共通の正典(せいてん)です。教科書みたいなものです。
昔、人々は同じ言葉を使って暮らしていた。
人間は、次第に技術を進化させ、石の代わりにレンガを作り始め、しっくいの代わりにアスファルトを作り始めた。
この技術の進歩により、今まで作れなかった高さの塔を作れるようになった。
そして人々は、天まで届く程の高さの塔を立てよう、と考えました。
要するに、神さまに近づこうと考えたのです。
神はこれに怒ります。天まで届かせようなどとなんたる馬鹿者か、と。
そして、こんな愚かなことをする人間が心配でした。
そこで神は考えます。同じ言葉を使うから、連携出来てしまうのではないか?
よし、では、言葉をバラバラにしてしまおう。
そして、バベルの塔に雷を落として破壊。さらに人々は言葉が通じなくなってしまい、世界中に散らばりました。
という話です。
どうでしょうか?色々な漫画や映画で同じような話が使われていることもあるので、なんとなーく知ってた、かも知れません。
聖書も読んでみると意外と面白いです。宗教だから、ということで読まず嫌いしなくても良いと思いますよ。
現代のゲームとか漫画は、神話とか聖書あたりから話を持ってきているものも多いですし、こういう話を知っていればより楽しめるかも知れません。
ではバベルの塔の話はここまでです。都市国家成立の話に戻りましょう。
文明の発展
各地に都市国家が成立すると、文明も発展します。
灌漑の技術に必要な、暦(こよみ)を知る技術も発達し、太陰暦・占星術・六十進法も生まれます。
例えば、毎年決まった時期に大雨が降るとか、寒くなるとか、暑くなる、ということをちゃんと把握出来るようになります。
私達はカレンダーでいま何月何日で、季節がなにで、というのがわかりますが、これも全ては太陽や、星を観測することで生まれた技術です。
六十進法は現代もっとも身近なものでに使われています。どこで使われているかわかりますか?
実は時計が六十進法です。◯◯進法というのはその数字で繰り上がるという意味です。
時計は60分で、次の時間に繰り上がります。
11時59分の次は12時です。間違っても11時60分とは言いませんね。
なにげなく使っている時計ですが、60で区切りをつけるというのは良く良く考えれば中途半端ではないですか?10とか100とかでも良かったわけですから。
なぜ六十進法なのか?は色々な説がありますので、ここでは日本時計協会から引用しておきます。
古代バビロニア人が数学・天文学で使用していた「12進法、60進法、円周360度」から時間の単位は作られたと言われています。獲物を分ける、農作物を分ける等、分割しやすい数というのが、便利な単位であったということも背景にあったようです。
円を分割するのに6等分をベースにした分割方法は使いやすかったのだと思われます。
6等分は1辺が半径の長さになる正三角形となるので、半径の長さで円周上を切っていくと簡単に6等分することができます。更にそれぞれ半分に分けると12等分が完成します。
12等分されたものは、半分にも、4等分にも分けられるし、3等分、6等分、そして12等分にも分けられる、分割するのに便利な数字なのです。
更にそれぞれを5等分したものが60分割になります。60分割にすると5等分や10等分も可能になりより使い勝手がよかったのでしょう。(60は100までの数字で最も約数の多い数字)
ちなみに、私達が計算で良く使うのは十進法です。
9の次は桁が繰り上がって、2桁になります。
よく見てください、10は、1と0を並べているだけです。それを「じゅう」と読んでいるだけ。
試しに、10をバラバラにして、1と0、にしたら、なんて読みましたか?「いち」と「ぜろ」と読んだでしょう?
つまり、「じゅう」という記号(数字)は現代では使われていないわけですね。10まで進むと次の桁に繰り上がるので十進法です。
戦争の始まり
文明が発展してくると、そこに競争が生まれます。
競争は戦争へと発展し、戦争が強い国には莫大な富が集まります。
壮大な宮殿・神殿・王墓が作られ、豪華なシュメール文化が栄えるのですが、戦争は国の力を弱めます。
勝てば大丈夫と思うかも知れませんが、勝っても国力は一時的に落ちます。ローマは勝ち続けたのに衰退してしまいました。
それでは、なぜ戦争が起きると国の力が弱くなるのでしょうか?
当たり前ですが、戦争をするためには、戦士が必要だからです
戦士が戦うということは、それを支える食料が必要となります。
戦士だけが戦っている状態ならまだいいのですが、農民が駆り出されると食料を生産するものがいなくなります。
食料を生産するものが居なければ食べ物がなくなります。食料がなければ戦えなくなります。
つまり、戦っているあいだ、生産力が落ちるのです。生産力は落ちるのに戦争で思いっきり体力を使いますので、消費量も増えます。
仮に勝ったとしても、食料を生産しなかった土地は荒れ果て、農民が戦争で死んでしまっていれば、その土地を耕す者がいなくなり、生産力が落ちます。
人が多く暮らすためには食料が必要なのに、この食料が無くなるわけですから、当然都市は衰退します。
そもそも、都市はどのようにして出来たのか?を考えてみるとわかります。
まとめない世界史を最初から読んでいれば”ピン”と来ると思いますが、食料があるから人々が定住し、定住するから職業がわかれ、技術も発展するのです。
食料が無くなる、ということはこの最初の部分、根本の部分が無くなる、ということなので、国力の低下どころか国の崩壊が起きてもおかしくありません。
食料問題や資源の問題はいつの時代も戦争のもとになりますので、覚えておいてください。
現代社会でも、エネルギーの元となる石油や生きるための水は争い事の種です。
特に日本は水資源が豊富ですが、この水資源は諸外国から結構狙われたりしてます。
シュメールの衰退
シュメール都市国家は絶え間ない戦争を繰り返し、衰退していきます。
この衰退したシュメールを前24世紀にセム語系のアッカド人が征服します。
アッカド人はセム語系のアッカド語を使用した民族で、バビロニア(南メソポタミア北部)から起こった都市国家です。
南メソポタミア北部、なのでウル・ウルクなどからもう少し北へ行った地域です。
シュメール人都市国家を次々に征服し、メソポタミア最初の統一国家を建設します。
王の名前はサルゴン。画像は、サルゴン一世と考えられているものです。
重要な人物ですが、実は詳細はまだよくわかっていません。